石郷岡 敬佳 略歴  

 

 1928   北海道 小樽に生まれる

 1941   独学で油絵を描きはじめる

 1954   東京銀座、一番舘画廊で個展

 1956   上京

 1979   日本展・日本芸術家連盟会長に就任

 1980   ロイアルサロン・ザ・ギンザにて個展

 1984   銀座アートセンターにて個展

 1987   ワシントン世界銀行アートギャラリーにて個展

 1988   ニューヨーク、キースグリーンギャラリーにて個展

 1989   パリ、ピエールカルダン主催の個展

 1992   パリ、パリ市主催の個展

       以後、東京で数多くの個展を開催する

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ヴォーグ誌(1989年9月号)に掲載された記事は石郷岡氏

を知る上で貴重な手がかりとなる。

以下、その抜粋である。

 

           「 人生は稲妻のごとく過ぎ去るのだから、総合的に愛するだけである」

      石郷岡氏がこのように易々と話すことができるのは、氏が完全な独学であり、

      13歳で描きはじめて以来決して描くことを止めなかったからである。日本最

      北の壮大な島、 北海道に生まれ、その美しさは氏のなかに永久に刻みこま

      れたにちがいない。たった一度だけしか絵を描くのを見なかった芸術家の祖

      父がいなければ、氏を芸術に結びつけるものは何もなかったであろう。しかし、

      石郷岡氏自身が言うように、「人はつねに、自己から遠くにあるものに限りな

      く惹かれるのであるから。」

      青春期、 文学においてとりわけ詩人がするように、ありとあらゆる美術雑誌

      を通してまず夢中になったのが、まさしく西洋美術だった。当時、幸運な巡り

      合わせで、17年間イギリスで暮らした近所の日本人が戦争最中の孤独な午

      後に、画集という唯一の贅沢を発見させてくれたのだった。そしてその中には

      氏が真の絵画言語の創造者とみとめるようになる画家たち、ミレー、ヴァン・

      ゴッホ、ピカソがいた。 というのも石郷岡氏にとって、「世界中でこれほど多く

      の人々が絵を描くのだから、独自の絵画言語の創造者だけが真の画家なの

      だ。他は、どんなに絵がうまくても、職人にとどまってしまう」のだから。

       後に氏は西洋美術から3つの基本原理、遠近法・黄金分割・シンメトリーを

      引き出す。 その一方、27歳の時京都を旅行して、初めて日本美術に興味を

      持つようになる。日本美術の本質については、それは氏にとって何よりもまず

      内なる時空の表現なのだ。言語という定められた符号を利用できる作家とは

      逆に、 画家は、ピカソが立体派でしたように、記号による独自の世界を創造

      しなければならない。では、どのようにしてその語彙を見い出すのか? それ

      は自ら工夫して見い出すのである。28歳で、もはや後戻りしまいと肖像画や

      風景画と決別し、石郷岡氏は抽象画に、というよりも ”自分自身の” 抽象に

      取りかかった。 他の抽象画家に係わりはなかったが、氏にとって常に師であ

      り友人であり、その作品を愛したのは、岡田謙三だけだった。

       「具象画と抽象画の距離は、 歌と交響楽の距離と言えるだろう。 誰もがそ

      ろって歌の喜びを理解し感じることができるが、 交響楽は別の次元の感性と

      文化に訴える。私にとって抽象画は、交響楽に相当する。ハーモニー、リズム

      ボリューム、テンポの規則があり、そこにレトリックが加わるが、 これは美術

      学校では教わらないものだ。」 と氏は笑いながら言う。

       「現代音楽が不協和音のハーモニーであるように、現代絵画では、古典絵

      画とは逆に、寒色で熱い印象を作り上げたり、また逆に冷たい印象を暖色で

      表現したりする。しかし、技法が絵画で最も重要なわけではない。私にとって

      絵を描くことは、 つきつめれば、 無限の時空という大宇宙を絵画空間という

      小宇宙に表現することである。 それ以外のことは、 あまり語るに及ばない。

      時が判断してくれるでしょう。」

                               

                                

ポール・ジェンキンス氏と語る石郷岡敬佳
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