1989年  シメーズ 11−12月号掲載

東方の兆し

マルチーヌ・アルノ

 

                   まず、 無機物と植物の間でゆらめく絵画を思う。 この二つの王国が時折混

                 じり合う。その絵は、世界の起源を描いているようだ。大海が名もなき大地を覆

                 う、山々が閉じた空に向かってそそり立ち獣たちを追い払う、 火山口が火を吐

                 き出し溶岩がひたひたと這う、そんな世界の起源を。火口が岩を膨張させる。

                 亀裂の網が、色の網が、あちらこちらに絵画空間を酸化する。

                   突然の鎮静が元始の混沌に続く。 そこでは、 静寂な世界、水生の世界を描

                 き出す。風の裂け目に波立つ、化石化した滑らかな湖面。わずかに感知される

                 突起が、脈打つ、淡い潮解。花火がたゆたう、不条理な化学。

                   水母の透明感を認めたと思うと、その瞬間、 それは突然消え去り、真紅の仮

                 面に場所を譲る。 一日として、一夜として、 対象物のない時、 断絶のない時は

                 ない。時には終焉すらない。

                  流動する星座が蒸発し、 金箔が軽やかなこぬか雨となって降りかかる。 爆燃

                 と炸裂の中から光の跡がうかび上がる。 あたかも、光が痕跡を残すことができる

                 かのように。 あたかも、子供が閉じた瞼を眩暈がするまで押し付けた時のように。

                 物語は書き替えられない。 アラジンの魔法のランプは、いつでも悪霊に打ち勝つ

                 のだ。そしてついに、人生の縁で無限に小なるものを描く。ひそやかなエネルギー

                 に生気を得た細胞宇宙を拒絶する。

                  石郷岡敬佳は、 こういったものすべてを、 そしてそれ以上の物を描く。 彼は、

                 宇宙も石もながれもすべてが囁き合う空位王国を創造する。